初陣が告げられた。
約一年もの間鍛え続けた結果を試す機会が訪れたのだ。
だが、誰もが思った疑問がある。
武器は?
しかし上官に疑問を挟む勇気ある隊員はいなかった。
よくよく考えれば、この基地はただの基地であって戦場ではない。
だから法律に触れるのだろうと無理やり納得させた面々は、明後日の出撃に備え三々五々に散って行った。
ミズヤ達も部屋に引き揚げ始める。
歩きながら、ふとお互いをじっくりと見ると、思わず考え深いなと見入ってしまった。
「おまえ、こんなに逞しかったか?」
ベルクが一番小柄なルージルに尋ねる。
会ったばかりの頃は幼い顔の上に言動も幼かったため、いつかリタイアするのではないかと思っていたのだが、元々の基礎が違うのでバックルの様にはならないが、それでもかなりの筋肉が付いており見違えるほどだ。
「セン大尉に鍛えられたもんね~、見てよこの筋肉!」
と片袖を捲り一同に披露する。
「おぉ~」
ルージルの幼さも相まって弟のように感じていたミズヤ達は、心の中でその成長にほろりと涙する。
「でも俺だってこんなもんさ」
続いてベルクが袖をまくり上げると次々とみんな自分の成長を見せつけた。
物静かなコミュでさえそうなのだから、初めての戦闘に高揚しているのだろう。
片袖を捲りあげ、大口を開けて馬鹿笑いする集団。
それでもそれは彼らにとって一体感を感じさせるものであった。
一年、生活を共にしてきたのだ。
厳しい訓練を共に乗り越えてきたのだ。
その共に笑い続ける少年達は部屋へと消えていくが、夜が更けてもその笑い声が絶えることはなかった。
ミズヤ達にとってその日の朝は訪れないも同然だった。
いくら休みとはいえこれほど夜更けまで話したことはない、ただ不安を払しょくしたかった、数人とはいえ戦死者もいるのだ。
まだ若い彼らには不安を紛らわす時間が必要だった・・・・・・のだが、容赦ないノックの音で心地良い睡眠は破られた。
「ミズヤ~、起きてる~!!」
母親モードの上官だった。
「もうまだ寝てるのね、ほらさっさと着替えておいでなさい」
と、本当に息子の服を遠慮なく脱がし着替えさせる。
当然その様子に気づいていたベルク達は、あっけにとられてその様子を見守るしかなかった。
いきなり息子の服を脱がせる母親も母親だが、今日は軍服ではなく普通のスカートをはいて普通の眼鏡をかけているのだ。
見た目の若さも相まって、母親と分かっていても目をそらした方がいいのかと周りの五人が悩む中、息子を抱えた母親は彼らに向かってさわやかに言い放った。
「借りるぞ!!」
「イエスサー!!」
「あ、あの・・・・・・母さん?」
「ん?」
センは普段の休日でもほぼズボンを着用しているので、十数年ぶりの母親らしい、記憶にあるままのその姿にミズヤは戸惑っていた。
この姿で自分に優しく聞き返す母親こそ、自分が思い描いていた母親だった。
「えっと、どこへ?」
「うふふ、今日はね」
思いっきり含みを持たせて母が笑う。
そこにバークも合流する。
父親も軍服と違い、普通の父親らしい格好をしている。
その父に駆け寄った母が寄り添う姿は息子の自分でさえ入り込めない絆があった。
その二人が自分に向かって手を差し出す。
「さあ、行こう」
ミズヤはためらわず両手を伸ばし、父と母の手を取った。
子供のようでいいと思った、小さい子供のように両親に挟まれ手を繋いでもそれでいいと思った。
小さい頃に出来なかったのだ、それを察するようにバークとセシリアはミズヤに優しく寄り添った。
さっき見た入り込めないと感じた絆、その中に溶け込む自分をミズヤは感じる。
ミズヤの中は幸福で満たされ、明朝までの不安な気持ちなど残す隙間もない。
幸せだった、幸せを与えてもらった、ミズヤの中で全てのしこりが流されていくようだった。
「お、どうした? 幸せそうな顔して」
部屋に戻ってきたミズヤに声をかけるベルクだか、その表情は硬い。
明日は初陣なのだ、たまたま両親が同じ軍にいたというだけで自分が恵まれているのだとミズヤは感じる。
「あ、いや・・・・・・」
それに気付き歯切れが悪くなるが、それだけで嫉妬を向けるような仲間は誰もいなかった。
それどころか「シエラが探してたぞ」と伝えてくれる。
「俺を?」
「ああ。今なら部屋にいるだろ」
「行ってあげた方がいいんじゃな~い?」
彼女がいるという事だけは羨ましさを全開に出し仲間がからかってくる。
仲間の期待に応え、精一杯恥ずかしがって見せてからシエラを尋ねに行く、実は元々ミズヤも用事があったのだ。
しかし彼女とは部屋でなく、廊下で出会った。
「ミズヤ・・・・・・よかった探してたんだ」
いつもは大きく見えるその体が、なぜか今日は小さく見える。
いくら体格が良いといってもそこは女性、不安でいっぱいなのだろう。
おそらく男のミズヤより不安だったはずだ。
「シエラ」
自分を慰めるような声を出すミズヤに、シエラは一年前と違い成長したなと内心ほほ笑む。
最初に会った時は自分を苦手としていたし、女に優しくするのも苦手だったのだ。
結局それが原因で、彼女という立場にはあるが、仲は全然進展していない。
「今日、出かけてたんだって? 何だか印象が変わったね」
別に責めているわけではないのに、ミズヤは気まずそうに眼を伏せる。
身長差はあるが、年はそれほどかわらないのにどうしてこんなに可愛いのだろうか? 普通は男が女に対して思うような感情にたまらずシエラはミズヤを抱きしめた。
「え、うわ!!」
そう言ってうろたえる姿も可愛らしい。
「本当は明日の緊張を解きほぐしてあげようと思ってたんだけどね、理由がないのもいっか」
「え?」
シエラはミズヤの頬の少し下の方を包み込み上を向かせた。
「シ・・・・・・エラ」
一年で多少は背が伸びても、未だシエラに追いつかないミズヤに覆いかぶさるようにそっと口付けた。
今まで頬くらいにしかキスをされたことがなかったので、ミズヤは真っ赤になって硬直している。
しかしさすがにこの体勢は男として情けないと思ったのか、少し強めにシエラを抱き返した。
「シエラ、あまり無茶するなよ」
「うん、分かったよ」
ガタイの大きさと女だということで狙われやすいシエラ、実戦でも的になるだろう。
「シエラ、ありがとう」
「キ、キスしたことに礼なんて言うか? 普通」
「あ、ごめん」
「まあ、らしいけどね」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ミズヤはシエラを見つめたまま目を離さない。
あまりに沈黙の長さにシエラが照れて目線をそらす。
「シエラ、これ!」
そう言って何かの包みを渡す、プレゼント用に可愛く包装されたものだ。
「あんまりこういうのを買ったことないから、少し悩んだんだけど」
何もミズヤからは期待していなかったシエラは驚きのあまり声が出ない。
気になって中を開けようとするがミズヤに止められる。
シエラは大きさと箱の形でなんとなく中身は分かったのだか、別に我を通す必要もないのでその手を止める。
「ありがとう、ミズヤ」
さっきとは違い、今度はシエラがミズヤに礼を言う。
そしてまた赤面する姿を可愛いな~と思うのであった。
シエラはミズヤと別れ、部屋に戻りながら我慢しきれず包装を解く。
大きさ的にどっちだろう? とドキドキしながら開けると・・・・・・
可愛らしいデザインのネックレスだった。
「やっぱりこっちだよね」
ネックレスか指輪かどちらかだろうとは思ったが、シエラ的には指輪がいいなと思っても、ミズヤのことだからネックレスだろうとも思っていた。
オーソドックスでひねりがないと言えばひねりがないプレゼントだ。
しかも鎖が千切れるのが怖くて、服の下にも付けれない。
それでも嬉しい事には変わりないので、足取りを軽くしながらシエラは部屋へと戻って行く。
明日はいよいよ出陣の日である。
前回に続き話が一気に進んでます、いつの間にかミズヤとシエラはくっついてます。
元々シエラは登場予定はなかったのですが、連載にしようと思いヒロインが必要かな?と考えたキャラなのですが、結構お気に入りキャラになりました。
基本強い女が好きなんですね、母親のセシリアも強いし。
あ、本編できちんと説明してませんでしたが、センがサングラスをしてるのは目が弱いからです。こういうのをちゃんと本編で言及しないといけないんですよね、反省。
(2010.1.16)